在庫管理術
試薬の在庫管理|法規制による管理工数の多さ・煩雑さを軽減するには?
ひと口に試薬と言っても、法規制下にない試薬から「毒物及び劇物取締法」で規制されている毒劇物、「消防法」で定められている危険物、さらにその両方の法規制が掛かる試薬があります。
その他にも「試薬」にはさまざまな法規制があり、その管理は非常に慎重を期するものです。この記事では、そのような試薬の在庫管理工数を軽減するIoTソリューションをご紹介します!
試薬の在庫管理の基本|法律・グレード・少量管理
この記事で扱う試薬は「試験研究用薬品」を正式名称とし、合成や分析など化学的に用いられる化学物質を示します。医療における臨床検査薬も「試薬」と表現されていますが、行政的な扱いが異なるため、当記事で記載している試薬には含みません。
「試薬」は学術的には学校・大学・研究機関、製造業においては開発研究室で化合物の合成や成分検出・物理的特性の分析に用いられます。さらに製造業では製品の品質チェックにも使用。また試薬には、以下の法規制下にある化学物質と法規制下にない化学物質があります。
- 毒物及び劇物取締法
- 消防法における危険物
- 両方の法規制下
ただし毒劇物や危険物ではなくても、必ずしも安全というわけではありません。環境や人体への暴露・蓄積により有害性を引き起こす物質も数多く、試薬管理にはさまざまなリスクアセスメント*1が厚生労働省により求められています。
そのため、「労働安全衛生法」・「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」・「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善促進に関する法律」・「高圧ガス保安法」・「水質汚濁防止法」などが、試薬マネジメントにおける重要な法律となっています。
さらに単純な合成実験や成分検出と、一定の精度が必要な定量分析*2や定性分析*2では、使用する試薬のグレードが異なります。例えば「メタノール」には、メタノールの含有量が異なる特級・1級・HPLC用*3・脱水などのグレードがあります。
これらは分析か合成かといった使用目的や、それぞれの要求精度に応じて使い分けます。そのため産業用の工業薬品より、要求精度の高い試薬は有効期限を厳密に遵守しなくてはなりません。
また産業用の工業薬品とは異なり、試薬はそれぞれの用途に適したグレードを少量使用します。そのため試薬は少量使用の需要・供給形態が成り立っています。
*1:リスクアセスメントとは事業所におけるあらゆる危険性や有害性の特定、リスクの見積、リスク順位、リスク低減措置を意思決定する一連の査定内容(厚生労働省HPより)。
*2:定量分析・定性分析とは化学分析の手法。ある物質中に含まれる成分(元素やイオン・原子団)量や成分・化学構造を調べること。
*3:HPLCとは高速液体クロマトグラフィーの略語で混合物を分離して各成分を分析する手法のひとつ。
試薬の在庫管理の課題|法律遵守による管理工数の拡張
とにかく管理工数が多く、煩雑
毒劇物法や危険物取締法で定められている試薬は、少量の使用であっても常に煩雑な管理工数が付きまといます。
特に毒劇物に関しては、帳簿などにより納品量や使用量を管理しなければなりません。また施錠され、かつ「医薬用外毒物」もしくは「医薬用外劇物」の表示がある保管庫での在庫管理が必要です。
さらには保管庫が災害や盗難による破損を免れるような堅牢な保管庫であること、鍵自体も管理することが法律で定められています。
次に危険物は、下図のように倍数をそれぞれ合計した時、指定数量1以上ならば消防法が適用されますが、1未満ならば消防法は適用されません。しかし少量危険物としての届出や少量危険物保管庫の設置は必要となってきます。
少量危険物の取扱に関して、事業所の所在地である地方条例によって多少は変わってきます。ただし指定数量0.2以上1未満ならば、地域に関わらず少量危険物の届出が必要です。
さらに前述したように、環境や人体への影響を考慮し、試薬には各種法律の規制があります。
しかもこれらの法律は、環境や人体を保護する特質から改定サイクルが短く、また公布日から施行日がわずか1週間など短期間なものも。改正の内容は、法規制がかかる試薬の対象が広がったり、排出ガスや排液に含まれる成分量の規制強化(時には緩和)が主な趣旨です。
このように法規制が掛かればかかるほど、外せない管理工数が増えるのが、試薬の在庫管理の最たる課題と言えるでしょう。
*4:毒物及び劇物法(本則:第一条~第三条)で定められた毒物、劇物、特定毒物
*5:消防法で定められた危険物にはそれぞれ指定数量が決められている。(例:メタノールの指定数量400リットル、ジエチルエーテルの指定数量50リットル。)
原則は保管庫に返却。作業員は在庫量が見えにくい
毒劇物や危険物に限らず、リスクアセスメントの観点から「試薬は原則保管庫に返却する」という体制をとっている研究室や品質管理部門は数多く見受けられます。
そのため使いたい試薬が必要数量あるのかどうかは、帳簿に記載されている在庫量を確認する必要があります。しかしながら、もしひとつでも記載・入力漏れがあった場合、在庫量が足りない可能性も否めません。
正しい在庫量を把握するためには、わざわざ保管庫に出向き、保管庫を開錠して、目視カウントや計量器で測って確認する工数と労力が必要となってきます。
消費スピードが不測。「欠品」回避で「過剰在庫」に
品質管理部門では生産計画に則り、品質チェックに試薬が必要であれば消費予測に基づき発注をかけます。在庫管理と発注業務の体制が整っていれば、欠品に陥ることはまずないでしょう。
しかしながら研究部門では担当・開発内容・KPIや納期、またどのような試薬が必要か、状況が日々刻々と変化することも。そのためさまざまな試薬の消費スピードが読めず、欠品したり、反対に欠品を回避しようとする余り過剰在庫となったりします。
基本的には研究員個人や研究チームの担当者が、試薬の在庫管理や発注業務を本業の傍らで行います。試薬利用に関するコミュニケーションが密でないと、使用予定の試薬が別のチームに使われ欠品したり、逆に重複発注となり過剰在庫に陥ったりする例も少なくありません。
また試薬は有効期限が切れると純度・品質が落ちるため、使用目的や要求精度に適さなくなります。さらには決して低価格ではないため、常に適正な量の在庫管理が求められることを覚えておきましょう。
消防署や毒劇物監視員による立入検査も
毒劇物や危険物の製造所・取扱所・貯蔵所・営業所では、消防署や毒劇物監視員による立入検査があります。事前にそれとなく予告するケースもあれば、事故経歴のある事業所には予告なしに立入検査をすることも。
法律や法令に基づくだけではなく、事業所ごとに策定義務がある消防計画*6や毒物劇物危害防止規定*7も併せて、危険物・毒劇物が正しく管理されているかの監査を受けます。
例え予告があったとしても、日頃から5Sや3定すら守れないようならば、杜撰な管理や保管方法は見抜かれてしまいます。その場合、戒告を受けたり業務の一時・一部停止命令がでたりする可能性は否めません。
*6:消防計画とは、建屋の防火設備・消防設備の維持管理から避難経路、保管場所や保有空地の内容、自衛消防手段・訓練内容などを事業所ごとに自ら策定し、消防署により認可を受けた計画書のこと。
*7:毒物劇物危害防止規定とは、毒劇物の種類に応じ具体的かつ詳細な取扱方法と管理・責任体制を各事業所が自主的に明示した規定書。保健衛生上の危害の未然防止が目的。
研究・開発部門では本業の傍らで管理
研究者・開発者が実験で使用する試薬の在庫管理や発注業務が煩雑で工数が多ければ多いほど、本業が疎かになりがちです。
特に製品のライフサイクルが短い機能化学品を扱う業界では、開発期間は短く商機も非常にタイト。さらに毒劇物や危険物を利用した新規開発品は、前述の化審法等の法律により人間や環境に負荷を与えないかどうか判断し、必要なら届出をしなくてはなりません。
もちろん一定以上の企業では、在庫管理や発注業務を担当するスタッフ、法律・法令関係を統括する法務部を備えています。しかしながら新しい商品を生み出す開発・研究部門では、それまで取り扱ったことがない試薬を研究員の発案で用いることは少なくありません。
場合によっては既存の購買先ではなく、新規の取引先企業であることも。そのためどうしても研究員自らが本業の傍らで発注し、モノに応じた管理方法を整え、在庫管理するという工数が発生します。
試薬の在庫管理の課題を解決!「重量変化を捉える」在庫管理システムとは
モノの「重さ」をリアルタイムに計測することで、消費や在庫量を把握し、高度な自動発注を実現する在庫管理システム「スマートマットクラウド」。
システムネットワークに組み込まれたIoT重量センサは「重さの変化を捉える」シンプルな仕組み。リアルタイム重量データをクラウドを介してさまざまな機能が搭載された上位システムに転送し、在庫管理・発注業務を超効率化します。
遠隔での在庫・消費量を把握。自動記録で管理工数を削減
「重さの変化を捉える」IoT重量計に管理したい試薬を載せるだけで、計測した重量を基にクラウド上で自動算出し、個数もしくは割合を上位システムに表示。試薬の在庫量の見える化に寄与します。
これにより遠隔での在庫数量把握が可能に。管理者や取扱責任者がわざわざ保管庫や倉庫に出向いて目視カウントを行ったり、開封済み・使用途中の試薬残量を計測したりする必要はもうありません。
また使用後の試薬瓶などをIoT重量計に載せ、ボタンを押すだけで残量の計測が可能です。
残量が上位システムに転送され、自動で生成される推移グラフやCSVに消費量が自動記録されます。そのため使用都度の消費量計測とシステム手入力といった工数は不要です。
リアルタイム在庫量の可視化と情報共有が可能
リスクアセスメントの観点から毒劇物などに限らず、原則として施錠付きの保管庫に返却することが多い試薬。特に毒劇物に関しては「鍵の管理」も規制下にあるため、迅速な実在庫の把握が難しくなっています。
試薬をIoT重量計で管理することで、リアルタイム実在庫データの可視化が可能に。さらに管理画面により在庫量データを全スタッフが共有できます。
そのため実験や製品の品質管理に必要な試薬があるかどうか、わざわざ保管庫を開錠して確認する必要はありません。迅速な実験着手や品質管理スケジュールのスムーズな進行に寄与します。
精度の高い「自動発注システム」で適正在庫を維持
スマートマットは予め決めておいた発注点や閾値を下回ると、自動発注をしたり、発注アラートを送信したりする自動発注システムを搭載。さらに過去2ヵ月分以上の消費・発注履歴があればAI学習により最適閾値や発注点をリコメンドしてくれます。
その他にも重複発注の防止機能や購買先に合わせてFAX・メールでの発注形式を選定できる機能があります。また自動発注は定量発注方式にも定期発注方式にも対応可能です。
さまざまな機能が付随し、精度の高い自動発注システムにより適正在庫の維持が可能に。価格の高い試薬の過剰在庫を抑え、キャッシュフローの正常化にも貢献します。
一元管理や5Sの定着で立入検査にも動じない
IoT重量計を用いることで在庫量や消費量の一元管理ができ、またCSVダウンロードにより消費履歴を照合することが可能です。そのため納品や入出庫状況に関する調査にも適切に応じられるでしょう。
さらにIoT重量計を用いた在庫管理システムを運用するにあたり、以下のように5Sや3定に繋がるメリットが生じます。
- 重量計に紐づいた試薬は同じ重量計への返却が必須
- 置き場所(IoT重量計)が定まることで整理・整頓に寄与
- 在庫データにより使用途中の試薬瓶等の増加・散見を抑制
- 中身が見えにくい容器でも内容量の把握が容易
- データ共有やシステム運用に関するスタッフへの教育・定着
このようなメリットにより、リスクアセスメントに配慮した管理体制だと判断される可能性が高まります。
研究・開発の技術者が本業に集中
スマートマットクラウドでは試薬の消費量データを迅速に記録できるため、試薬を使用する度に使用量や残量を計測する必要はありません。また定常的に使用する試薬は労力をかけずに適正在庫が維持できるため、在庫管理工数は大幅に削減されます。
また研究スタッフのなかには学歴や必要に応じて毒劇物取扱責任者となる資格や危険物取扱者の資格を保有しています。そのため自社で取り扱う試薬全般の取扱責任者や監督者に任命されることも。
しかしながら消費データとリアルタイム実在庫の可視化により、取扱責任者・監督者が行うべき確認工数の抑制が可能。管理工数が削減されることで、技術スタッフは本業に集中でき、研究・開発のスピードアップに貢献します。
試薬管理専門システムとIoT重量計の併用メリットは?
毒劇物取扱法や消防法・化審法などをはじめ、さまざまな法律が関わる試薬。法律の改正サイクルがタイトであったり、規制強化されたりするケースも数多く見受けられます。
そんな試薬在庫管理システムには、次のような試薬に特化した機能が付随しています。
- 法改正の度に法規制対象範囲や規制内容を自動で更新
- 試薬ごとに法規制・PRTR該当かを表示
- 試薬ごとにICタグorバーコードで在庫管理・棚卸
- 試薬ごとに有効期限をアラートで通知
- 個人ID×鍵による保管庫の開錠、入場記録
- 個人IDのスキャンにより使用者・使用日時を記録
- 保管庫の施錠・開錠状況を逐一管理者にアラート発信
- ISO15189に準拠した試薬台帳の利用が可能
- 保管庫の鍵を電子錠つきBOXなどに保管
試薬専門の在庫管理システムを利用することで、工数を抑えながら試薬のリスクアセスメントに対応する法律を遵守することができます。
しかしながら、試薬の使用量に関しては利用者による計量とシステムへの手入力が必要なケースが多いようです。また在庫管理や棚卸については、試薬瓶ごとにバーコードやICタグを一つひとつ貼りつけたり、スキャンしたりする労力が掛かります。
そのため、法律規制に強みのある試薬の管理システムとIoT重量計を用いた在庫管理システム(スマートマットクラウド)の併用をお勧めします。法規制を遵守しつつ、さらに使用量管理・在庫管理・棚卸・発注における工数の削減が可能です。
既存のシステムと併用できるように、スマートマットクラウドではAPIやWehook機能を搭載。試薬管理システムを導入しているものの、在庫管理にはまだ課題感をお持ちなら、ぜひご一考下さい。
使用量や残量の計量はもう不要!試薬の在庫管理を超効率化する「スマートマットクラウド」
スマートマットクラウドは「重さの変化を捉える」ことで、IoT重量計であるスマートマットの上に載せた物品の在庫管理と自動発注を行います。「重さを計測してデータをクラウドに転送する」というシンプルなプロダクトと、直感的な操作が可能でさまざまな機能が付随した上位システムにより、在庫管理の超効率化を実現します。
◆特徴
- 遠隔管理:保管庫への移動、開錠、在庫確認工数を削減
- 使用量把握:マットのボタンを押すだけで使用量の自動計測・自動入力
- 安全性向上:有害性のある試薬の計量やカウントの工数を省略化
- 自動発注:自動発注で高価格な試薬の適正在庫を維持
- 異常消費の検知:世間への影響が大きい盗難を早期発見
●さまざまな自動発注に対応
お客様の発注先に合わせた文面でメール・FAXの送信が可能です。
●在庫圧縮を促進
推移を把握できるグラフで適切な在庫量を判断し、在庫圧縮を促進します。
●置く場所を選びません
スマートマットはサイズ展開も豊富。管理したいモノの重さによってサイズを選べます。g単位からマルチマット使用で1トンの重量単位まで計量可能。電源・配線不要なため、火気厳禁の場所でも使用OK!
●API・CSV・Wehookでのシステム連携実績も多数
自社システムや他社システムと連携を容易に行えるAPIやWehookを実装。またCSV形式でのデータ保管・転送より在庫管理の超効率化を実現します。
分析用試薬の在庫管理・自動発注に成功。分析を中断していた発注業務をゼロに
スマートマットクラウドはクリニック・製造業・インフラなど、さまざまな企業様に導入して頂いてます。その中で試薬の在庫管理・自動発注をご利用いただいた導入事例を紹介します。