在庫管理術
食品製造業のDXとは?現場の「不定貫・液体」管理を自動化し利益を生む仕組み
「毎月末の棚卸で残業が続く・・・」「廃棄ロスや欠品が減らない・・・」
これらは多くの食品工場が抱える共通の悩みです。また、一般的な在庫管理に用いられるバーコード管理だけでは、運用が定着しにくいケースがあります。なぜなら食品工場には、「バーコードが貼れない在庫(不定貫・液体・粉体)」が溢れているからです。
本記事は、食品製造業が直面する特有の課題と、それを解決するための「現場起点のDX」を解説。 農林水産省のデータや大手企業の事例を押さえつつ、今日から始められる具体的な解決策と、稟議を通すための費用対効果(ROI)試算ロジックまでを網羅した、現場責任者のための実践ガイドです。
食品製造業における「DX推進」の現状と、現場の「取り組み」を阻む壁

食品製造業においても、人手不足解消や生産性向上のためのDX推進は喫緊の経営課題となっています。しかし2023年に食品製造業従事者を対象に全国で実施された富士電機の調査によると、実際に「現在DXに取り組んでいる」と回答した企業はわずか13.6%にとどまっています。(富士電機:食品製造業DXの意識調査)
なぜ、多くの現場でDXの取り組みが足踏みしてしまうのでしょうか。まずは業界全体の現状と、食品工場ならではの構造的な課題を整理します。
食品DXは「在庫」だけではなく、「生産・品質・物流」までデータでつなぐ取り組みです。なかでも現場で成果が出やすい入口が、数えにくい在庫の可視化です。
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効率化・DXの入口である「バーコード管理」が定着しにくい理由
多くの企業が在庫管理のシステム化につまづく背景には、小売店舗等で成功している「1個単位の管理手法(バーコード等)」を、食品現場への持ち込んでしまう点にあります。食品工場の現場には、こういった管理手法を拒む「3つの壁」が存在します。
1. 不定貫(ふていかん): 肉や野菜など、個体ごとに形状や重量が異なり「1個」と定義できない。
2. 液体・粉体: タンクの調味液や使いかけの小麦粉など、使用するたびに残量が連続的に変化する。
3. 現場負担: 水濡れや汚れが多い現場で、都度バーコードリーダーを操作するのは作業効率を著しく下げる。
これらの在庫を無理やりExcelのマス目や汎用的なシステムで管理しようとすると、現場の疲弊とデータ精度の低下を招きやすくなります。現場の実態(プロセス製造業の特性)に即したソリューションを選べないことは、DXが停滞する典型的な要因のひとつです。
「貼らずに、量る」。現場のDXは『重さ』で解決する

前述の「数えられない在庫」を正確に管理するために特に相性が良いのは、IoT重量センサー(スマートマット等)を活用した「重さ」による管理です。
IoT重量センサーで実現する「自動棚卸」の仕組み
仕組みは至ってシンプル。在庫をマットの上に置くだけで、センサーが重量を検知し、クラウド上で個数や残量(%)に変換して可視化します。
- 粉体: 開封済みの袋も、置くだけで使用量を自動計測
- 液体: 中身が見えないドラム缶や一斗缶でも、載せるだけで残量を計測
【現場の声📢】「見えない在庫」との戦い
ある食品工場の担当者は、調味液が入ったドラム缶や一斗缶の残量管理に苦労していました。中身が見えないため、持ち上げた感覚や棒で叩いた時の音の響きで残量を推測していたものの、どうしても誤差が生じ、発注ミスや過剰在庫が発生。
重量センサーでの管理に切り替えたところ、「あと何kg使えるか」が即座に分かるようになり、欠品と廃棄の両方が大幅に減りました。 また高価な香料やスパイスなどの微量原料は、小型マットによるg単位での管理で、過剰消費や消失、所在不明の防止にも役立ちました。
【規模別】食品製造業のDX成功事例
DXには、大規模なライン設計を伴うものと、特定工程から始めるものがあります。自社の規模感に合った事例を参考にしてください。
1. 目指すべき「スマートファクトリー」の姿(大手企業)

日清食品やマルハニチロなどの大手企業では、工場内のあらゆる設備や工程をデータでつなぐ「スマートファクトリー化」を推進しています。
■ ニチレイフーズ(*参照:ニチレイ「DX取り組み事例」)
- 目的:食品工場の効率化に向け、独自のAIを開発
- 取り組み:2023年稼働の冷凍米飯工場で、画像認識AIを搭載した設備を新規導入
- 効果:チャーハン製造で発生する「焦げ」を、判定〜除去までロボットが自動化
- 追加効果:焼豚との判別や具材割合の判定により、設備トラブルの発見にもつながった
■ 日清食品(*参照:NISSIN KANSAI FACTORY)
- 目的:無人化を目指したスマートファクトリー化
- 取り組み:品質管理カメラと集中監視室(NASA室)により、稼働状況や工程を一元管理
- 効果:ライン内に人が入らなくても、映像とデータで現場を把握できる体制を構築
- 追加効果:ロボット技術で作業を自動化し、省人化と人為的リスク低減を推進
■ 三島食品(*参照:広島県DX推進コミュニティ)
- 目的:生産状況をリアルタイムで把握し、現場の見える化を高度化
- 取り組み:広島工場でBIダッシュボードを導入し、「目で見る管理板」を電子化
- 効果:生産状況・実績などの情報をリアルタイムで把握できる体制を整備
- 追加効果:設備のIoT化により、稼働監視・温湿度管理・原材料品質管理・インシデント可視化などを実現
■ マルハニチロ(*参照:スマートファクトリーで生み出す食品製造業の未来)
- 目的:全国工場の業務を標準化し、スマートファクトリー化を推進
- 着手:2013年に構想を開始し、半年かけて現場調査を実施
- 課題:デジタル化が一部に留まり、多くが手作業/工場ごとに業務プロセスが異なる
- 取り組み:機能要件を90項目に整理し、2017年から直営工場へシステム導入を開始
- 効果:ペーパーレス化で記録業務の負担を削減し、端末による製造指示で人的ミスを防止
- 追加効果:作業が明確になり、改善活動が前向きに進む環境づくりにつながった
2. 明日からできる「スモールスタート」の実践(中堅・中小企業)
一方で、既存の工場設備を活かしながらDXを進める企業も増えています。 株式会社マスヤでは、給食用食材や梱包資材の在庫管理にIoT重量センサー「スマートマットクラウド」を導入しました。
- 課題:週2回、広い工場内を歩き回って行う実地棚卸の負担
- 解決:在庫を遠隔地からリアルタイムに監視
- 成果:工場への立ち入り不要、棚卸工数の大幅削減、発注ミスの防止。
失敗しない導入ステップと「現場の壁」の乗り越え方
新しいシステムを導入する際、最大の障壁となるのが「現場の反発」です。以下のステップで進めることで、導入がスムーズに進むケースが多いようです。
STEP1:「一番面倒な在庫」から始める
いきなり全在庫ではなく、「毎日使う小麦粉」や「中身が見えない液体タンク」など、現場が管理や扱いに最も困っている品目からスタートし、効果を実感してもらいます。現場で効果が実感しやすいだけでなく、工数削減や使用量の変化が数値で把握しやすいため、導入推進側にとっても効果測定が行いやすいのが特徴です。
STEP2:目的を「管理」にしない
現場には「棚卸のムダな手間を減らし、現状の業務負担を減らすため」に導入することを十分に伝えましょう。「監視される」「慣れない業務が増える」という感覚を持たれると、現場の拒否感が高くなります。
また導入推進側も「管理」だけが目的になってしまわないように、実際どのように業務が効率化され、現場の負担が減るかを常に念頭に置く必要があります。
STEP3:現場作業にマッチするかを検証
現場の作業動線を大幅に変更したり、他の業務を圧迫したりするようなシステムやDXソリューションでは、現場に定着しません。DXを進める業務・作業だけではなく、付随した現場作業にもレトロフィットするかどうかを適切に検証しましょう。

稟議を通す!ROIの具体的な試算ロジックと経営価値の可視化
DXツールの導入には一定のコストがかかるため、経営層の承認を得るには「便利になる」だけではなく、投資として妥当かどうかを数値で示すことが重要です。
DX戦略が求められる背景:深刻な人手不足と低い生産性
食品製造業は国内有数の出荷額を誇る巨大産業※1ですが、労働生産性は製造業平均の約6割と低水準です。少子高齢化による人手不足に加え、原材料価格の高騰が利益を圧迫しており、これまでの「人の頑張り」に依存した現場運営は限界を迎えています。
そのためDXは、現場改善にとどまらず、経営として投資判断すべきテーマになっています。
※1:農林水産省 食料産業局「食品産業をめぐる情勢」によると、食品製造業の出荷額は38.4兆円(2024年)で自動車製造業、化学工業に続く。
定量効果①:工数削減✕人件費
最も説明しやすいのが「棚卸・在庫確認工数の削減」です。
削減効果(円/月)=(従来作業時間ー導入後の作業時間)✕ 人件費単価 ✕ 人数
定量効果②: 廃棄ロス・機会損失の削減
過剰在庫を圧縮できれば、期限が切れた在庫の廃棄を大幅に抑えられます。廃棄費用には原材料購買価格だけでなく、廃棄処理コスト(産廃費用)も含まれるため、これらの費用を削減できます。
また需要予測が可能なDXソリューションであれば、欠品による機会損失も防ぐことが可能です。欠品による機会損失を緊急回避するために掛かっていた費用も、ROIの試算に外せない項目です。
【削減対象項目】
- 原材料の購買価格
- 廃棄処理コスト
- 緊急発注・特急配送費
- 欠品によるライン停止損失
- 品切れによる売上機会損失
定性的効果:経営者が見るべき“見えないリターン”
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DXの価値は、定量効果だけではありません。むしろ、長期的には企業価値を高める定性的効果も重要な判断材料になります。
- ブランディング・取引競争力の向上
HACCPに沿った衛生管理やトレーサビリティの強化など、食品業界ではデータと記録に基づく管理体制が求められている。「管理レベルの高い工場」としての信頼獲得につながる - 人材確保・属人化リスクの低減
紙やExcel運用、ベテラン依存からの脱却、平準化により、働きやすい環境づくりや採用力向上・離職リスクの抑制につながる
数値化しづらい領域ですが、3〜5年単位では財務インパクトに直結します。稟議では、実務者が試算できる短期ROIに加え、経営層が判断すべき中長期価値も論点として提示することが重要です。
補助金の活用
「IT導入補助金」や「ものづくり補助金」、「中小企業省力化投資補助金」などは、在庫管理システムの導入や生産性向上に直結する投資に対して活用できるケースが多くあります。
初期投資を抑え、ROI(投資回収期間)を短縮するため、最新情報を官公庁などの公式サイトで確認の上、ベンダーへ相談することをお勧めします。
食品DXに関するよくある質問(FAQ)
Q1. 食品DXとはどういう意味ですか?DXとは具体的に何を指しますか?
A.食品DXとは、食品業界において、IoT・AI・クラウドなどのデジタル技術を活用し、生産・在庫・品質・物流を最適化する取り組みです。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、単なるIT化ではなく、業務やビジネスモデルそのものを変革することを意味します。
Q2. 食品業界はなぜDX化が遅れていると言われるのですか?
A. 食品業界DXが遅れがちなのは、属人化した現場作業、紙・手作業中心の管理、設備更新の難しさが背景にあります。一方で、人手不足や品質要求の高度化により、食品工場DXの必要性は年々高まっています。
Q3. 食品メーカー・食品工場のDX事例にはどんなものがありますか?
A. 食品DX事例としては、IoTによる在庫管理DX、製造ラインの見える化、AIを使った品質検査や需要予測などがあります。飲料業界を含め、スマートファクトリー化を進める食品メーカーが「勝ち組」として競争力を高めています。
実在庫を見える化するDXソリューション:スマートマットクラウド

食品工場のDXで最も難しいのは、「不定貫・液体・粉体」といった“数えられない在庫”を、現場負担を増やさずに管理することです。
スマートマットクラウドは、在庫をマットに置くだけで重量を自動計測し、欠品や廃棄ロスの原因になりやすい“見えない在庫”の管理を仕組化できるIoT在庫管理ソリューションです。
食品製造業の現場でスマートマットクラウドができること
- 不定貫・液体・粉体など「数えにくい在庫」の残量を、置くだけで見える化
- 開封済みの粉体・液体でも残量割合を表示
- 棚卸しや在庫確認の工数を削減(移動・確認・記録の手間を圧縮)
- 発注点の管理やアラートで欠品防止を支援(過剰在庫の抑制にも)
- 冷蔵庫・冷凍庫など食品工場の環境でも設置可能(ケーブルレス)
- 水を扱う現場でも使いやすい設計(防沫レベル:IPX3)
- CSV/API連携で既存システムとつなげられる(FAX発注にも対応)
スマートマットクラウドで在庫管理DXを実現した食品製造業の導入事例
現場ファーストのDXで「利益が出る工場」へ
食品製造業のDXは、必ずしも壮大なロボット工場の建設だけを指すわけではありません。 現場の作業員が日々苦労している「見えない液体の残量確認」や「粉まみれの棚卸し」を、IoTの力で自動化する。
そんな小さな一歩が、結果として廃棄ロス(フードロス)を減らし、適正在庫を実現し、会社の利益に大きく貢献します。まずは、自社の課題に近い事例を確認し、どれくらいの効果が出るかシミュレーションすることから始めてみてはいかがでしょうか。

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