在庫管理術
医療現場の働き方改革【現場の課題・概要・いつから・なぜ必要か・取り組みや事例】
医療現場の働き方改革とは【わかりやすく】
人口の減少、若い世代の職業意識の変化、医療ニーズの多様化などによる、医療従事者の確保の難しさが問題となっている医療現場。
昨今のコロナ渦における医療現場の逼迫や疲弊も大きな話題となり、医師や看護師、薬剤師……など医療現場の働き方改革は国をあげての取り組みとなっています。
この記事では、医療現場の働き方改革について、いつから施行?概要は?現場の労働環境の課題は?なぜ働き改革が必要なのか?についてわかりやすく解説していきます。
さらに、医療現場の働き方改革の事例や働き方改革をサポートする今、話題のIoT機器についてもご紹介します。
そもそも働き方改革とは
厚生労働省の「働き方改革特設サイト」が定義している働き方改革とは、働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革とされています。
そして、働く人の置かれた事情に応じて、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指すとも記載されています。
- 少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少
- 働く人のニーズの多様化
といった現在、日本が直面している課題に対応するために、多様な働き方を選択できる社会へ向けた「働き方改革関連法」が2019年より施行されています。
働き方改革関連法
働き方改革を進めるため、以下の法改正がすでに順次始まっています。
- 年次有給休暇の時季指定(施行 大企業・中小企業とも2019年4月~)
労働基準法が改正され、使用者は、法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、毎年5日、年次有給休暇を確実に取得させる必要があります - 時間外労働の上限規制(施行 大企業:2019年4月〜/中小企業:2020年4月〜)
残業時間の上限は、原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません - 同一労働同一賃金(施行 2020年4月〜*中小企業におけるパートタイム・有期雇用労働法の適用は、2021年4月1日〜)
正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止されます
医療現場の働き方改革はいつから?【医師の2024年問題】
一般企業ではすでに2019年より施行されている働き方改革ですが、実は医療の現場での働き方改革は2022年時点では除外されており、まだ施行されていません。
医師の勤務環境改善には長期的な見通しが必要となるため、5年間の猶予が与えられているためで、2024年4月からの施行と先延ばしになっているのです。
それはなぜかと言いますと……。
医療は、公益性や専門性の高さなどがネックとなり、単純に労働時間を削減するだけでは医療体制に問題が生じる可能性があるためです。
つまり、医療現場の働き方改革が、医療現場だけにとどまらずに社会的に大きな問題へと発展する危険性を回避するために猶予が与えられているというわけです。
医療現場では、2024年4月までに勤務環境を改善する「医師の働き方改革」に取り組む必要があり、これを「医師の2024年問題」と呼んでいます。
医療現場の働き方改革がなぜ必要か?【医師・看護師の課題】
では、改善するために長期的な見通しが必要だとされる医療従事者の勤務環境の具体的な課題を見ていきましょう。
医師
2017年(平成29年)より厚生労働省で22回にわたり開催されている「医師の働き方改革に関する検討会」では、以下のような課題が報告されています。
- 日本の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており、危機的な状況にある
- 医師は、昼夜問わず、患者への対応を求められうる仕事であり、特に、20代、30代の若い医師を中心に、他職種と比較しても抜きん出た長時間労働の実態にある
- 進歩し続ける医療技術やICT*(情報通信技術)への対応や、より質の高い医療やきめ細かな患者への対応に対するニーズの高まりなどにより、長時間労働に拍車がかかってきた
- 勤務環境整備が十分進んでおらず、出産・育児期の女性など時間制約のある医師にとっては就業を継続しにくい働き方となっている
- 救急搬送を含め診療時間外に診療が必要な患者や、所定の勤務時間内に対応しきれない長時間の手術、外来の患者数の多さなどに対応しなければならないとする応召義務*の存在
- タスク・シフティング(業務の移管)が十分に進んでいない現場の勤務環境
- 求めに応じ質の高い医療を提供したいという個々の医師の職業意識の高さ
- 患者対応に伴う事務作業が多さ
- 患者側の都合により診療時間外での患者説明に対応せざるをえない
- 診療時間外の看取り時でも主治医がいることが求められる
*ICT:「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略。通信技術を活用したコミュニケーションのこと。
*応召義務(おうしょうぎむ):医師法第19条に規定されている、医師が診察や治療を求められた際は、正当な理由なく拒否をしてはならないとする義務。
看護師
看護の資格を持つ個人が自主的に加入し運用する、日本最大の看護職能団体である医療社団法人日本看護協会がまとめた看護職個人が組織の中で働き続けられることに焦点を当てた「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」によると以下のような現場の課題が明らかになっています。
- 夜勤・交代制勤務に加えて長時間の時間外労働の常態化
- 業務開始時刻前より業務を始める(前残業)
- 持ち帰り業務
- 勤務時間外の研修や在庫管理や発注業務など、カウントされない時間外労働と未払い残業問題の常態化
- 女性比率の高い看護職にとって上記のような厳しい労働環境は、結婚・出産・育児などに直面した際、仕事との両立が困難であることから離職の要因となり、また復職を阻む大きな壁になっている
- 看護職の高齢化
- 患者などから看護職への暴力・ハラスメントといった業務上の危険
このように医療現場を支える医師や看護師は過酷な勤務環境の課題を抱えていることが明らかになっています。
そして、これらの課題を解決し、医療従事者が疲弊することなく、モチベーションを維持しながら、本来の業務に邁進するため、日本の医療の将来のためにも働き方改革を行うことは必要不可欠なものと言えます。
医療現場の働き方改革の概要
2024年4月から施行される医療現場の働き方改革の概要を具体的にご紹介します。
働き方改革のメインとなるのが「労働時間の上限規制」です。
一般的な企業・業種に、労働基準法第32条で定められている労働時間(法定労働時間)は、「1日8時間まで(休憩時間1時間除く)/1週間40時間まで」です。これを超過した時間が「残業時間」となります。
医療現場の働き方改革で検討されている上限規制の原則は、「第20回医師の働き方改革に関する検討会」の報告によると、「年960時間以下/月100時間未満」です。
また、地域医療連携や救急医療、在宅医療など、地域医療の供給体制を維持するために「長時間労働もやむをえない」と判断される領域については、残業時間は「月100時間未満、年1,860時間以下」まで認められます。
対象となる医師の分類は、以下の3種類に分類されます。
- A水準 すべての医師
- B水準 地域医療暫定特例水準
- C水準 集中的技能向上水準
それぞれの詳細は以下の表の通り。
対象 | 上限 | |
A水準 | 診療従事勤務医 | 年960時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
B水準 | 救急医療など緊急性の高い医療を提供する医療機関 | 年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
C水準 | 初期臨床研修医・新専門医制度の専攻医や高度技能獲得を目指すなど、短期間で集中的に症例経験を積む必要がある医師 | 年1,860時間以下/月100時間未満(休日労働含む) |
自分がどの水準に当てはまるかをしっかり確認の上、上限を守るようにすることが必要になります。
ちなみに、副業・兼業している多くのバイト医師に関しては、B水準に当てはまります。
医療勤務環境改善マネジメントシステム
医療現場の働き方改革に先立って、厚生労働省委託事業による調査・研究や、関係審議会での議論を経て、2014年(平成26年)10月1日に、医療機関の勤務環境改善に関する改正医療法の規定が施行されています。
具体的には、各医療機関が
PDCAサイクル【計画(Plan)⇒実行(Do)⇒点検(Check)⇒見直し(Act)】
により、計画的に勤務環境改善に取り組む仕組み(勤務環境改善マネジメントシステム)を導入することなどとされ、各医療機関における勤務環境改善マネジメントシステムの導入による、勤務環境の改善が期待されています。
そして、この勤務環境改善マネジメントシステムとは、各医療機関において、
『医師、看護師、薬剤師、事務職員等の幅広い医療スタッフの協力の下、一連の過程を定めて継続的に行う自主的な勤務環境改善を促進することにより、快適な職場環境を形成し、医療スタッフの健康増進と安全確保を図るとともに、医療の質を高め、患者の安全と健康の確保に資すること』
を目的として、各医療機関のそれぞれの実態に合った形で、自主的に行われる任意の仕組みとされています。
各医療機関は、国が定めた指針や手引きを参照して、多職種で構成する推進チームなどにより、現状の把握・分析、課題の抽出を行い、できることから改善計画を策定して取り組みを始めてみる必要があります。
また、都道府県ごとに、勤務環境改善に取り組む医療機関を支援するための「医療勤務環境改善支援センター」を順次設置し、医療労務管理アドバイザー(社会保険労務士等)や医業経営アドバイザー(医業経営コンサルタントなど)が専門的・総合的な支援を行っています。
勤務環境改善マネジメントシステムに関する相談や課題は、各都道府県の医療勤務環境改善支援センターが受け付けています。
看護職のワーク・ライフ・バランス
一方、日本看護協会でも上記のような看護師の勤務環境の課題解決のためには、看護職のワーク・ライフ・バランス*の実現に向けて、個人のライフイベントに応じて働き方を選択できる「多様な勤務形態」の普及に取り組んでいます。
*ワーク・ライフ・バランス:直訳すると「生活と仕事の調和」。「働くすべての方々が、『仕事』と育児や介護、趣味や学習、休養、地域活動といった『仕事以外の生活』との調和をとり、その両方を充実させる働き方・生き方」のこと。
看護師が働き続けられる職場づくりを支える制度や取り組みの例をご紹介します。
短時間正職員制度
短時間正職員制度とは、通常のパートタイマーと異なり、正規雇用でありながら通常よりも短い時間で働く雇用形態です。具体的には、福利厚生・社会保険・育児・介護休業などが適用されることと、通常の正職員と同等の昇進昇格や教育訓練などの機会が与えられることが特徴です。
給与は正規雇用のフルタイム職員と同様の給与体系が、勤務時間の違いのみを反映して設定されます。
より安定した雇用、仕事の内容や責任範囲・権限に応じた処遇を実現することができるようになります。
短時間であれば働き続けられるという看護職は多く、短時間正社員制度の導入は多様な勤務形態、働き続けられる職場づくりを実現するためには欠かせないと注目されています。
医療現場の働き方改革の事例
労働管理の方法
ICカードによる出退勤管理システムの導入【藤枝市立総合病院】
ICカードによる出退勤管理システムを導入し、勤務時間管理の厳格化を行うことで…。
職員の労務時間管理の意識が高まり、出退勤時刻の記録を開始したことで早すぎる出勤を抑止するようになった。
他職種とのタスク・シフト/シェア
医師事務作業補助者の活用【医療法人社団美心会黒沢病院】
医師、看護師、薬剤師などの専門職が担うべき業務を整理し、医師事務作業補助者を増員し、診断書の代行入力等を行うことで…。
医師の残業が削減されている実感がある。さらに、診断書作成にかかる期間が2週間から1週間に短縮され、患者の利便性も向上している。常勤医16名の1ヶ月当たりの平均残業時間数が、5.25時間(平成26年度)から2.59時間(平成29年度)へ減少。
医師間の業務整理及びタスク・シフト/シェア
当直体制の見直し【医療法人 玉昌会(高田病院・加治木温泉病院)】
常勤医師の当直明けの日勤を午前中勤務のみへ変更し、あわせて当直室や当直手当等の見直し
を行い、外部からの当直医師(非常勤)の受け入れ環境を整えたことで…
精神的ストレスの軽減、スポット医師の増加、医師充足率の増加、常勤医の当直率の減少、常勤医が増えたことで、勤務医の負担を軽減し、勤務医がやりがいを持って本来のやるべき仕事に注力できるようになったとの声があった。
その他
ICTの活用【医療法人八女発心会姫野病院】
業務の効率化を目的としてチャット機能を有するアプリケーションを導入したことで…。
通話が必要最低限に抑えられ、通話による拘束がなくなることで、急ぎでない業務によって手を止められることがなくなり、業務の効率化に繋がった。また、会議前に会議の議題や内容を周知することにより、会議時間が短縮され、会議の時間を超過することがなくなった。
働き方改革と在庫管理や発注業務
医療現場では、以下のような在庫管理や発注業務の問題を多数抱えています。
- 在庫切れがあると、患者の治療に影響が出てしまう
- 物品が院内に点在していて、見て回るため、スタッフが持ち場を離れる時間が長い
- エクセルや手書きの在庫管理はミスや負担が大きい
- 在庫情報や発注情報が医師やスタッフみんなで共有できておらず、二重発注や発注もれが起きている
- 在庫管理や発注業務に追われ、医師や看護師による本来の業務や患者への対応に影響がでている
- 在庫管理や発注業務のために、時間外労働やサービス残業をすることがある
- SPDを導入した(したい)が、費用が負担になっている
このように、多くの備品、医療資材や薬品などを扱う医療現場では、在庫管理や発注業務は、働き方改革を行う上で、解決しなければならない大きな課題となっていることが明らかになっています。
次の章では、このような課題をサポートする今、話題のIoTを使った在庫管理についてご紹介していきます。
在庫管理・棚卸・発注を自動化するIoT
新型コロナウイルス、人手不足などさまざまな問題に直面している医療現場において、いかに効率化して正確に在庫管理・自動発注・棚卸を行うことができるかが重要となります。
そこで注目され、近年続々と各企業で導入されているのが在庫管理・棚卸・発注の自動化であり、その最も有効な方法として以下の2つが大きなキーワードとされています。
企業の営みや産業全体をデジタルの力でよりよくしていく取り組み
● IoT(Internet of Things)
IoT=「モノのインターネット化」
IoT機器を導入することにより、「自動化」や「見える化」が可能になり、棚卸、現場作業の改善、在庫管理、発注管理、品質管理なども効率的に行えるようになります。
このように稼働状況や生産状況、在庫などのデータを分析することで、人力では発見しにくい問題や傾向なども把握できるようになり、生産性の向上やロスタイムの削減につながります。
デジタルテクノロジーを駆使して、企業経営や業務プロセスそのものを根本的に改善していくDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現するためにIoTは欠かせない要素となります。
また、新型コロナウイルス対応などで業務に忙殺されている医療分野や調剤薬局、リモートワークを取り入れたい現場スタッフをサポートすることも大いに期待されています。
次の章では置くだけで在庫の見える化!医薬品標準コード「メディコード」とのデータ連携が可能!今、話題のIoT機器「スマートマットクラウド」をご紹介します。
スマートマットクラウドで在庫管理を自動化
現場のあらゆるモノをIoTで見える化し、発注を自動化するDXソリューション「スマートマットクラウド」を使えば、貴院でも簡単に自動化が可能です。
スマートマットの上に管理したいモノを載せるだけで設置が完了。あとはマットが自動でモノの在庫を検知、クラウド上でデータを管理し、適切なタイミングで自動発注してくれます。
さまざまな自動発注に対応
「スマートマットクラウド」は、メール・FAXに加え、医薬品やディスポーザブル製品の受発注などに広く使われている標準商品コード「メディコード」を使ったAPI連携により、貴院で現在お取引のある主要ディーラーに対し自動で発注を行うことができます。
スマートマットのサイズは、A6サイズ〜A3サイズまで
- 倉庫室のラック上
- 診療エリア備え付けの棚の中
- 引き出しの中
貴院のスペースや使用状況、導線に合わせた設置が可能です。
働き方改革に貢献!スマートマットクラウド導入事例
スマートマットクラウドは、現在多くの医療機関に導入いただいています。導入をきっかけにスタッフの労力を削減し、働き方改革を実現した事例をご紹介します。