スマートマットショッピングは、7月1日付で社名変更し「エスマット」として生まれ変わり、DXによる企業の課題解決へさらにフォーカスして突き進んでいきます。
エスマット共同代表取締役の林英俊が、各界のキーパーソンとともにDXの可能性を考えていく対談連載『DXのミライ』。初回はきづきアーキテクト代表の長島聡氏をお迎えしています。前編は「個を磨きつつ『団体戦』に備えよ」でした。中編のキーワードは「妄想力と全体の俯瞰力を高めましょう」です。DXにはなぜ妄想力が必要なのでしょうか。
長島氏は欧州最大級のコンサルティングファーム、ローランド・ベルガーの元日本代表です。林にとって長島氏は、かつての上司でもあります。「製造業×DX」をみてきた長島氏はどのようなミライを描いているのでしょうか。
長島聡(ながしま・さとし)
きづきアーキテクト 代表取締役、工学博士
早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、1996年ローランド・ベルガーに参画。自動車等の製造業を中心に500を超えるプロジェクトを手がける。同社日本代表、グローバル共同代表をへて、2020年7月に新事業を量産する会社、きづきアーキテクトを創業。2023年よりエスマットアドバイザー。ファクトリーサイエンティスト協会理事、ベンチャー企業のアドバイザー、政府系委員等も多数務める。
林英俊(はやし・ひでとし)
スマートショッピング 共同代表
コンピューターサイエンス修士、製造業中心の戦略コンサル(ローランドベルガー)、ECのプロダクトマネジメント(アマゾン)を経て、2014年にスマートショッピング創業。代表取締役として経営全般を舵取りしつつ、IoT x SaaSビジネス、Webメディア・D2Cビジネスの事業立ち上げなどグロース中心に実務も担う。製造とデジタルの交差点に立ち、製造DXを業界レベルで進めるための外部協業、日本全国のコミュニティ活動も積極展開。DX・IoT・在庫関連の講演・執筆・メディア発信も多数。ICCカタパルト優勝。重さの男。製造DX協会代表理事、三重大学リカレント教育の講師。
林:
ぜひ今回伺ってみたかったことがあります。なぜ我々エスマットを応援してくださっているのでしょうか。
長島:
エスマットのスマートマットは、シンプルな仕組みで色々なことができますね。しかも発展性も期待できる点が魅力です。だからこそ、ただ在庫量を数えるだけで終わってはいけませんよね。マットがあることで何に貢献できるのか。ここを突き詰めて提案力を磨かなければならない。単純に「楽しそう」というのも応援する理由かなと思います。
林:
世の中に貢献するためには、常に何ができるのかを追いかけていかねばなりませんね。
長島:
例えば、検品作業って、不良品と人との戦いです。経営者の視点でいえば「不良品を出さないでほしい」としか言ってないですよね。不良品を出さないために検品部門の担当者を増やすのか、はたまたもっとさかのぼって原因を探るのか。本来、あるべき姿は後者ですね。「人手不足で雇えないから、代替する機械を導入してください」では何も変わりません。
林:
全然アングルが違いますね。
長島:
日本は機能分化の組織です。各部門が効率化を突き詰めれば、全体の効率は徹底的に上がるはずだという考えのもとに取り組み続けてきました。各部門で閉じていて独立してますので、他のことを気にかける必要がありませんでした。
なぜそれで良かったのか。製品やサービスに含まれる機能が少なかったからです。でも機能が多くなるとそれぞれが相互に複雑に絡んでいたとしても現場は「歯車のように、自分のことだけやるしかない」という諦めの雰囲気が漂い、トップもそれぞれの関連性が分からなくなります。
ここで問題になるのが、本質的に何を求めているのかを考える人が減っていることです。本質をきちんと考え、それぞれの機能がどう貢献しているのかを紐づけていく。アーキテクチャをしっかりと考えていく人を作らなければならないのです。それぞれの機能でバラバラに頑張っても、まとまりのないぼやけた原価の高い製品やサービスになってしまい、戦いで負けてしまうことが続いてしまいますね。
林:
この文脈でいえば、私が長島さんと一緒にコンサルティングをやらせて頂いたときに、フォルクスワーゲンのモジュラー戦略のように塊で考えることをやってきましたね。日本ではあまりなかったように思うのですが、このような手法でしょうか。
長島:
欧州と日本では現場の強さが違いますね。極端にいえば、欧州では1000人のうち5人くらいだけが全体像を理解しています。その5人はアーキテクチャを考え、デジタルツールも使いこなしています。これに対して日本は現場が強い。全員が考える組織ですね。ボトムアップで考えて広げるがゆえにデジタルツールがなじみづらい。全体を俯瞰できるような考えが及ばないことで差が出てきています。かつては要素技術の強みで勝ってきましたが、複雑になりすぎてきて全体像に目をいき届かせるのが難しくなってきています。
林:
製造業としては、まだまだ理解が追いついていない。思い切って投資できるだけの収益が得られていないことが大きな問題ですね。自分たちの価値が高くないと団体戦は勝てないというなかで、日本には”束ねる役割”の会社が足りないようにも思うのですがいかがでしょうか。
長島:
それは間違い無いですね。あと組み合わせることに関しては欧州が得意です。インターフェースを決めないと、組み合わせは決まりません。そこで標準化という機能がとても大事になります。ただ、かつては要素技術の組み合わせの妙で付加価値を高められましたが、これも一巡しましたね。これからは組み合わせる要素技術もアップグレードしないと新しい価値が生み出しにくくなっています。それが故に日本の時代が再びくると感じているのです。束ねる力を少し鍛えて、要素技術で勝負すればかなり活躍できると思っています。
林:
デジタルは、要素技術のひとつの側面があります。私たちも最初は自宅のアルコールや水の下にマットを置いて、家事が楽になればいいやという要素を思いついたのです。いざマットを作って販売すると、色々な人が様々な使い方をしています。「飲食店の冷蔵庫はどうか」「ホテルのビュッフェもいんじゃないか」といったように、我々はお客様から使い方を教わってきました。製造業でもそうですね。使い方を提案し用途が広がると、またそこで新しい使い方が生まれる。業界のことを深く理解している人が使ってくれるのが嬉しく、より多く巻き込んでいけるかが勝負になってくると思います。
長島:
スマートマットって重量変化を記録するシンプルな機能ですね。1個の場合と、並べて使う場合に何ができるのか。重さの変化を何の変化としてとらえるのか。ここからが妄想力ですよね。
林:
はい。妄想力は大事です。ビュッフェで使われるのも予想外でした。もっと驚いたのは各フロアに置いてあるアルコール消毒機の下に設置したいという依頼でした。消毒液の自動発注を期待されているのかと思ったら違うのです。どのフロアが一番衛生に気をつけているのかを可視化して、インフルエンザを減らしたいというのです。使い方次第で色々な役立ち方があることに気づきました。
長島:
あとは遠方同士で使う方法もありますね。
林:
VMI(ベンダーマネジメントインベントリー)で活かせます。2枚のマットの重量バランスが崩れたら発注といった話ですね。長島さんに、デジタルとDXの違いを伺いたいです。本当にトランスフォーメーションが起こる時って、相当踏み込んだ提案をしないと変化が起こらない気がしています。
長島:
トランスフォーメーションの定義次第ですが、シーンが変わることだと思います。空間の流れが変わることで、これまでの動きと価値が変わります。「コスト削減できました」では大した話になりません。付加価値をつけることで単価を高められることが大事です。
林:
技術の導入できる人はいても、妄想できる人が少ない気がしています。だから活用が進まないイメージを持っています。
長島:
日本人の特徴として、領域や視野を特定されると工夫できますね。でもいざ自由に広げていいよといわれるとお手上げの人が多いのです。機能分化で組織が作られ、他とのつながりや全体で何ができるのかといったことに対して考える回数が圧倒的に少ないのが、トランスフォーメーションが進みにくい原因ですね。デジタルやアプリケーションさえ導入したら良いですよ、という話が溢れ返っています。
林:
政府の方と話す機会が増えていますが、導入に関する補助金のおかげで導入は進めど、全く活用されていないという問題意識がありますね。政府の方々の問題意識も、導入から利活用へとシフトしてきています。。
長島:
そもそもデジタルの活用を促すのではないのですよ。新しい空間の物の流れが定義されたなかで、デジタルをどう使うかを考えられる人が少ないことが課題なのです。ややこしいものになればなるほど、考える時間はかかります。例えば、スマートマットをうまく活用すれば、いまのカンバン情報よりも良いツールができあがるかもしれませんよね。それを妄想して描き切ることができていないんじゃないかなと思うのです。
林:
難易度は圧倒的に高いですが、チャレンジしていきます。