南紀白浜空港はもともと和歌山県営の空港でしたが、2019年4月より民間の空港会社が運営するようになりました。運営を担う南紀白浜エアポートでは「空港型地方創生」をキーワードに掲げ、空港を拠点として和歌山南紀エリアを活性化させる活動に取り組んでいます。
私自身の肩書きはオペレーションユニット長というもので、365日、常に南紀白浜空港を支障なくオペレートすることが責務となっています。
具体的には安全に飛行機を飛ばす業務から、セキュリティ管理、空港施設の維持管理、バスやタクシーといった空港へのアクセス手段の確保に至るまで、幅広く空港全体を統括する役割を担っています。
空港という公共インフラを維持管理するために、管理する在庫は種類も点数も膨大です。空港を継続的に機能させるために保持しなければならない部材については、必要最低在庫数が規程によって定められており、必要在庫を維持する責任が非常に重いことが空港会社の在庫管理の特徴となっています。
在庫の具体例を挙げると、滑走路面に損傷が生じた時にその補修に使用するアスファルト、除雪剤、非常用自家発電機、飛行機を安全に離発着させるために使用する航空灯火などです。航空灯火は取りつける場所によって、使用するランプの種類が規程で定められ約180もの種類があり、特に在庫管理に手間がかかる部材となっています。
基本的に月に1回在庫を総点検します。残数を確認し、残り少なくなっている物品は発注をかけます。こうした従来のアナログな手法では、日次・週次の棚卸をすることはできませんでした。
これまで複数のものを同時に在庫管理する効率的な方法がありませんでした。これは南紀白浜空港に限らず、全国の空港共通の悩みといえます。
空港ではどこも人的リソースを割いてアナログな在庫管理をしていますが、地方空港では人の雇用を維持することすら難しく、省人化が急務となっています。
また空港の在庫管理はただ数を数えるだけでなく、品質上に問題がないかも併せてチェックするため、業務上プレッシャーがかかる作業です。レギュレーションが厳しく、部材の欠品が許されないため、職員はストレスを日々感じつつ、業務にあたっていました。
提案を聞いた時に、航空業界全体の課題を合理的に解決できるソリューションであると感じました。
アナログ管理のままでは、職員は日々業務に追われ、じっくりものを考えることに多くの時間を費やすことができません。在庫管理業務は必須ですが、内容は決してクリエイティブではなく、職員の自己成長に直接つながりにくいのが実情です。
スマートマットクラウドの導入によって生まれた時間を、さらなる改善を生み出す仕組みを考えることに充てることこそが、真の効率化につながると判断しました。
最大の効果は、航空施設に必要な部材・部品の数量を人の手を使わずに遠隔で管理できることです。
部材の中でも航空灯火の在庫管理に非常に有益である考えています。航空灯火ランプは品質に個体差があり、あるものは1年持ち、あるものはひと月で切れるということもあります。オイルのように一定期間でどれぐらい消費するかという傾向がわかりにくかったのですが、スマートマットクラウドを活用すれば、職員に心的負担をかけることなく、残数を把握し必要最低在庫数を維持することができます。
南紀白浜空港はデジタル化(D)以上にトランスフォーメーション(X)に注力しています。世の中に優れたデジタル技術や製品は、開発途中のものも含め多数存在します。空港にとって価値あるソリューションを見極めて試行導入し、南紀白浜空港で実証実験を行なっています。プロダクトに改善の余地があったとしても積極的に導入し、ベンダー企業とタッグを組んでさらに良いものにしていく取り組みを続けてきました。
南紀白浜空港での取り組みを全国の空港にシェアしていく、いわば「トランスフォームのプラットフォーム」という役割をこれからも果たしていきたいと考えています。
在庫管理という業務は、国内外を問わず、全国のそして世界の空港で必要とされており、デジタル化すること自体に大変意義があります。
また在庫管理という業務自体が、担当者にとってプレッシャーが高いものです。立ち入りを厳重管理されている場所に鍵を開けて入る際に、もし在庫があるべき数より少なかったら、という不安に晒されることもあります。クラウドを活用し管理を自動化することは、職員の目に見えない負担を和らげ、雇用を持続させるという点においても効果が高いのではないかと考えています。
地方空港はどこも赤字ですが、赤字を減らすことばかりに注力していては面白みがありません。スマートマットクラウドは、重さで在庫を管理するという発想がユニークで、これからさらにシェアが伸びていきそうですね。空港産業そのものが民間企業の参入が制限される規制産業であり、新しいサービスを導入しにくい環境におかれていますが、ぜひ積極的に導入を進めていただきたいと思います。